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秘封倶楽部と状況

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現在 全407話。制作: @ubuwarai

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秘封倶楽部と状況
4 years
「もっとヒントを」と、私はまた蓮子に言った。 「それは動物ではない。無機物ではない。流体ではない」 「もっと!」 「音楽ではない。感情ではない。記号ではない」 蓮子が否定文のヒントしかくれないもので、私はとても幸福だった。いま蓮子は私のために、宇宙を彫刻してリンゴを作ろうとしている。
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秘封倶楽部と状況
1 year
蓮子の実家で光ディスクを見つけた。表題は「れんこ3才」、当然再生したけれど、想像していた映像ではなかった。目線からして子供の手で撮られたもので、窓の下からじっと息を殺し、青空を写していた。一塊の雲が、こっちへ迫ってくる。窓に影が落ち、「れんこー」と呼ぶ声が聞こえた。私の声だった。
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秘封倶楽部と状況
6 months
メリーの家のミキサーは強力な米国製で、悲鳴のような凄まじい駆動音を発する。これを使って怪談の朗読会を開いたことがある。読み手が聞き手の不意を突いてミキサーを叫ばせる。二人とも驚いてはしゃいだ。会の最後、メリーがぼんやりして本をスムージーにしてしまった。この時の悲鳴が一番怖かった。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「ねえ蓮子、漢字の靴と鞄ってたまにどっちか分からなくならない?」 突然の問でもあり、必ずしも「ならない」とは答えられなかった。そのうえ「足を包むから鞄がクツなのよね」とメリーが余計な連想を植え付けてきたのでいよいよ分からなくなってしまった。カバンが化けない理由を考える必要がある。
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秘封倶楽部と状況
5 years
蓮子が団地の解体工事を格安で請けてきた。「二人で解体なんて無理よ」と私は言ったが「工期が無い契約だもん」と蓮子は平気でいる。ホームセンターでツルハシを買い、屋上を少しだけ削った初日。あれから何年経ったか。私達はビルの一室に住みながら、日々風化していく約束を窓から眺め暮らしている。
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秘封倶楽部と状況
2 years
メリーが海で捕獲した波は、水槽に移してもしばらく活発に動いていた。「これ飼おうよ」とは私の提案だったが、波は夜になると弱りはじめた。振動に小さく反応するだけ。名残惜しいが放してやることにする。案の定、波は元気になり海へ帰っていった。何度も何度も引き返し、私達の足を抱きしめてから。
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秘封倶楽部と状況
5 years
メリーの誕生日に何が欲しいか訊くと「最終回が欲しい」と言う。買えるものではないので作ることにした。TV番組や漫画等の最終回を集めて研究し、当日は二人で過去を振り返ったり海へ来たり空を見上げたりした。良い最終回だった。あれから私達は最終回の後を生きているのだろうか。彼女は幸せそうだ。
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秘封倶楽部と状況
1 year
メリーの凄いところ。デパートなどでエレベーターを呼ぶと何故かたまに二台来てくれる。そういうときは二人別々の箱に乗る。目的の階まで並走する箱の中で話していると、お互いが透明になったようで面白い。そこで私は、二人の人間が同じ夢を眠ることは可能なのだと完璧に証明できる。扉が開くまでは。
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秘封倶楽部と状況
3 years
蓮子の家がひどく整然となっていたので、入る扉を間違えたかと思ったほどだった。「大掃除よ。邪魔なものは片付けたわ」と蓮子の声。でもどこにも姿が見えなかった。「気付いたの、究極的には自分の体も邪魔なんだって」仕方ないのでおやつは一人で食べることにした。慌てた蓮子が押入れから出てきた。
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秘封倶楽部と状況
10 months
蓮子に誘われたそのレストランは客層が非常に若かった。私達以外は小中学生の客しかいない。料理は甘口で、ワインは子供のころ想像したワインの味だった。楽しくなって葉巻のサービスも頼んでみた。やはり昔憧れた味だった。「悪くない店でしょう」蓮子は大人ぶった感じで言った。「ええ、とても……」
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秘封倶楽部と状況
5 years
「プリン作りたい」と蓮子が言った。「百個作りたい。それで全部メリーにあげる。美味しいから」蓮子の夢があんまり素敵で、二人ともおかしくなったように笑った。鏡を一枚割るために二台の列車を正面衝突させるような、過剰さの滑稽と恍惚。ようやく笑い止んだ頃には日が暮れていた。「一個で充分よ」
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秘封倶楽部と状況
5 years
「この中に、隠れて夜を呼んでいる子がいます」幼稚園の先生はそう言うと集められた園児たちの前に威圧的に立った。近ごろ日が暮れるのが早すぎるものでおかしな疑いを抱き始めたのだ。ふと見るとメリーはうつむいて震えている。私はそっと動いて友達を隠した。この話をするとメリーは「は?」と言う。
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秘封倶楽部と状況
1 year
メリーに向かない職業の一つに八百屋がある。メリーが持つとどの野菜も形の神秘さをむき出しにする。彼女は戸惑いながらメロンの網目を指でなぞり「たぶん遠い星の地図になってるの」と説明してくれる。海がないので簡単に星を一周できるだろう。「それだと退屈だから、わざと道を複雑にしたらしいわ」
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秘封倶楽部と状況
4 years
「来年の夏は広島に行きたいな」と、メリーが呟いた。「私行ったことあるよ。小学校の修学旅行で」「そうなんだ」このやりとりの後、メリーはしばらく無言のまま私の顔を見つめていた。「なんで私のお土産がないの?」時空を超えてお土産を要求するメリーに、私はもみじ饅頭を取り寄せるしかなかった。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「メリー、そんなの牛肉が美味しすぎるからに決まってるわ」 UFOが牛を攫う理由について尋ねたとき、蓮子はそう言って笑った。宇宙人は牛を持ち帰って畜産する気なのだ。牛の美味しさは地球人との接触よりずっと有益なのだ。牛は美味しさで星を超え繁栄した。では目の前の人工肉は誰の勝利なのだろう。
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秘封倶楽部と状況
3 years
メリーの論文が掲載拒否された。「現実は想像を迂回する」という新説が無理と見做されたらしい。確かに、世界の現実はどこかしら必ず想像と違う。従来人間の知力に限界があるせいとされてきたそれは、彼女によれば現実の方が想像と一致することを嫌がるせいだという。「こうなるのは想像してたけどね」
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秘封倶楽部と状況
5 years
コインランドリーに住んでいたことがあると話して、疑わなかったのはメリーだけだった。その頃私は友人達から洗濯物を集めては、あのガラス張りの箱で一晩中洗濯して過ごしていた。火に薪をくべるように、汚れた衣類が数十分ごとの私の権利を繋いでいた。この話に驚かなかったのも、メリーだけだった。
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秘封倶楽部と状況
5 years
イオンモールで迷子になったとメリーから電話があった。はじめは冗談かと思ったが本当らしい。あまり知られていないが、案内図に示されている地帯は実際のイオンの1%程である。その図から外れたら脱出は難しいだろう。急いで消灯前に階段を探すよう指示した。屋上へ出られれば、月の写真が撮れる。
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秘封倶楽部と状況
3 years
論文〆切日、徹夜明けの蓮子は半分になっていた。片目に眼帯をしている。「脳に入る情報は八割が視覚なの。だから片目閉じれば四割休める。訓練したら片脳ずつ眠れるようになったわ」以来、右脳蓮子と左脳蓮子は交代で登校する。半分の蓮子は少し物足りなかったが、たまに真顔で寝言を言うのは面白い。
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秘封倶楽部と状況
3 years
秘封俱楽部と状況 12月12日(秘封の日)特別編 『つまずく』1
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秘封倶楽部と状況
5 years
「あれ何?」そう呟いて車道へ歩き出した女性は車に轢かれて消えた。「あれ何?」しばらくして通りがかった女性がまた同じことを呟いた。車に轢かれて消えた。背後からメリーに声をかけられたとき、私の手は咄嗟にメリーの口を塞いでいた。メリーも負けずに私の口を塞いだ。随分と長い間そうしていた。
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秘封倶楽部と状況
1 year
待ち合わせ時間を間違えて十五分も早く着いてしまった。メリーは喜び「十五メリーポイントあげる」と言った。「メリーポイントは貯めるとどうなるの?」「何もないけど、減りすぎると怖しいことが起きるよ」事実なら安定した資産といえる。これを巡り戦争が起きないよう、私が預かっておくことにした。
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秘封倶楽部と状況
2 years
山際に住んで厄介なことは、夕方になると山からオーイオーイと呼ぶ声が聴こえること。「行ってみようよ」と蓮子は言うが、うるさくされてこちらから訪ねるのも面白くない。それならと蓮子は窓を開けて呼び返した。木々が揺れ、何かが駆け降りてくる……急いで家を離れた。やはり山ではヤッホーが無難。
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秘封倶楽部と状況
4 years
「不条理の恐怖とは」と蓮子が例え話をはじめた。「天井に畳が敷いてあるのに、その理由を誰も知らないということだわ」 短い話だった。しかし私にはそれは、十分に不条理でないように思えた。私にはむしろ「床に畳が敷いてあるのに、その理由を誰もが知っている」という方が、まだしも不条理だった。
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秘封倶楽部と状況
1 year
最近のコーラの味は、以前と違う気がする。「コーラって、悪夢を見ると味が変わるのよ」メリーが変な豆知識を披露した。言われてみるとこの飲み物は、寝入り端の瞼に流れ込む例の黒い水に似ていた。「人類の悲劇とコーラの売上を比較してもこれは確かなの」メリーの言葉こそ夢の名残のように聞こえる。
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秘封倶楽部と状況
5 months
特別編『本当のスプーンを買ったこと』 1,2/10
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秘封倶楽部と状況
4 months
蓮子の家がひどく整然となっていたので、入る扉を間違えたかと思ったほどだった。「大掃除よ。邪魔なものは片付けたわ」と蓮子の声。でもどこにも姿が見えなかった。「気付いたの、究極的には自分の体も邪魔なんだって」仕方ないのでおやつは一人で食べることにした。慌てた蓮子が押入れから出てきた。
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秘封倶楽部と状況
5 years
メリーが旅行へ行きたがっていた。私は「枕を普段と逆方向にして寝たら新鮮な感じがするわよ」とふざけたが、冗談になっていなかったらしい。「さすが蓮子ね」住宅内の自由に目覚めたメリーは、浴室で料理したり、玄関でお茶したり、押入れで寝たりと小旅行に私を連れて行った。写真もたくさん撮った。
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秘封倶楽部と状況
4 years
蓮子の家がひどく整然となっていたので、入る扉を間違えたかと思ったほどだった。「大掃除よ。邪魔なものは片付けたわ」と蓮子の声。でもどこにも姿が見えなかった。「気付いたの、究極的に自分の肉体も邪魔なんだって」仕方ないのでおやつは一人で食べることにした。慌てた蓮子が押入れから出てきた。
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秘封倶楽部と状況
2 years
その朝、蓮子は私にフレンチトーストを焼こうとしてくれました。ただ食パンにはカビが生えていて…蓮子は照れ笑い、外はとても良いお天気でした。そのことが不思議なほど悲しかった。世界は私たちのために作られたのではないのかもしれません。でも私たちだって、世界のために作られてはいないんです。
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秘封倶楽部と状況
1 year
蓮子、面白くない話して。「私が完璧な雪だるまを作った話なんだけど」もう面白い。「完璧な雪だるまは溶ける時も美しくないといけないの。でも普通は小さい頭だけ早く溶けてしまう」二つ同じサイズの雪玉使うの?「いや、完璧な方法を見つけた」ねぇこのあと面白くないの?怖くなってきた。やめよう。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「大学食堂が営業してるか、賭けない?」とメリーが言った。「それ、賭けにならないでしょう」賭けるまでもなく、今日は営業日のはずだった。何か裏でもあるのかと疑ったが、果たして、行ってみると食堂は開いていた。何の不思議もなく昼食はメリーのおごりとなった。いや、不思議は、なくはないが……
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秘封倶楽部と状況
2 years
メリーが海で捕獲した波は、水槽に移してもしばらく活発に動いていた。「これ飼おうよ」とは私の提案だったが、波は夜になると弱りはじめた。振動に小さく反応するだけ。名残惜しいが放してやることにする。案の定、波は元気になり海へ帰っていった。何度も何度も引き返し、私達の足を抱きしめてから。
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秘封倶楽部と状況
1 year
宇佐見蓮子という名前の一番おいしいところは、宇だとメリーは言う。蓮はもちろん良いが、通好みの味は宇らしい。午前一時にお酒を飲みながら聞いた話だったので、私はほとんど目を閉じて夢の中にいた。「そうかぁ…蓮じゃないんだ…」「宇佐見はどう思う?」これがメリーのおつまみだったのだろうか。
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秘封倶楽部と状況
1 year
「なぜ動物や赤ちゃんには悩みがないか、メリー分かる?」「四つ足だから?」と私は答えた。足が二本では少なすぎる。地に接する足が四本なら、どれだけ安心して生きられるだろうか。しかしこれは想定されていた答えとは違ったらしい。蓮子はしばらく何かを考えてから、ゆっくりと前屈みになり始めた。
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秘封倶楽部と状況
1 year
「もっとヒントを」と、私はまた蓮子に言った。 「それは動物ではない。無機物ではない。流体ではない」「もっと!」「音楽ではない。感情ではない。記号ではない」 蓮子が否定文のヒントしかくれないもので、私はとても幸福だった。いま蓮子は私のために、宇宙を彫刻してリンゴを作ろうとしている。
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秘封倶楽部と状況
11 months
蓮子、面白くない話して。「私が完璧な雪だるまを作った話なんだけど」もう面白い。「完璧な雪だるまは溶ける時も美しくないといけないの。でも普通は小さい頭だけ早く溶けてしまう」二つ同じサイズの雪玉使うの?「いや、完璧な方法を見つけた」ねぇこのあと面白くないの?怖くなってきた。やめよう。
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秘封倶楽部と状況
1 year
蓮子の家がひどく整然となっていたので、入る扉を間違えたかと思ったほどだった。「大掃除よ。邪魔なものは片付けたわ」と蓮子の声。でもどこにも姿が見えなかった。「気付いたの、究極的には自分の体も邪魔なんだって」仕方ないのでおやつは一人で食べることにした。慌てた蓮子が押入れから出てきた。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「台風の目っていうのは暴風の中心にある無風地帯のことで、物を見るほうの目があるわけではないのよ」 そう言って蓮子はカーテンを閉めた。私はテレビをつける。でも、蓮子の話は真実を隠すための表向けの方便なのではないだろうか。私があれと目が合ってしまった時から、台風は京都の上を動かない。
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秘封倶楽部と状況
4 years
「来年の夏は広島に行きたいな」と、メリーが呟いた。「私行ったことあるよ。小学校の修学旅行で」「そうなんだ」このやりとりの後、メリーはしばらく無言のまま私の顔を見つめていた。「なんで私のお土産がないの?」時空を超えてお土産を要求するメリーに、私はもみじ饅頭を取り寄せるしかなかった。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「メリー知ってる?二条公園の鵺池の底にすごいものが埋まってるらしいのよ」「すごいものって何?」「本質よ」その夜、池の水全部抜いて本質を掘り出した私たちは本質を手にすることになった。帰りにめん馬鹿一代に寄って魚介と鶏のダブルスープのラーメンを食べた。美味しかった。分かったのだ。
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秘封倶楽部と状況
5 years
メリー 無事これを読んでもらえて嬉しい。公園の水飲口を全開にして去ることに成功したのね。びしょ濡れでしょうからまずは足元にある側溝を開けてね。着替えと鍵の入った袋があるわ。駅のロッカーに現金と偽の身分証を用意してる。しばらくは静かに海でも眺めて暮らしてて。私もすぐに追いつくわ。
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秘封倶楽部と状況
4 years
《アカウント1周年 特別編》
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秘封倶楽部と状況
11 months
まだ駆け出しの大学生だった頃、多めに淹れた紅茶を魔法瓶に移して持ってくるのが楽しみだった。私も蓮子も全く無名で、日々の単位にすら困る生活だったのに、授業の合間に二人でお茶して気持ちだけ優雅になった。「いつか単位に���裕ができたら、教室でケーキも食べようね」蓮子のよく言う冗談だった。
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秘封倶楽部と状況
4 years
「11月12日はいい秘封の日よ」メリーによれば、そうらしい。慌てて手帳の暦を調べたが、確かにそう書かれている。いったいいつごろから、何者によってそんなことになったのだろう。不思議ではあるが、それ以上どうすることもできないので私もただ繰り返した。何かのために。「11月12日はいい秘封の日」
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秘封倶楽部と状況
5 years
12月12日(秘封の日) 特別編 12時12分より
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秘封倶楽部と状況
1 year
蓮子の実家で光ディスクを見つけた。表題は「れんこ3才」、当然再生したけれど、想像していた映像ではなかった。目線からして子供の手で撮られたもので、窓の下からじっと息を殺し、青空を写していた。一塊の雲が、こっちへ迫ってくる。窓に影が落ち、「れんこー」と呼ぶ声が聞こえた。私の声だった。
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秘封倶楽部と状況
3 years
注文を取りに現れたその店員は、驚くほど蓮子によく似ていた。「カフェラテひとつ」「お砂糖はどうされますか」「そっとしといてあげて」「承知しました。お砂糖には触りません」彼女とも友達になれそうな感じだった。約束の時間を過ぎているのに、蓮子はまだ来ない。バイトが長引いているのだと思う。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「なぜ動物や赤ちゃんには悩みがないか、メリー分かる?」私は「四つ足だから?」と答えた。足が二本では少なすぎる。地に接する足が四本なら、どれだけ安心して生きられるだろうか。しかしこれは想定されていた答えとは違ったらしい。蓮子はしばらく何かを考えてから、ゆっくりと前屈みになり始めた。
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秘封倶楽部と状況
1 year
秘封倶楽部がM-1優勝を果たした。私は何もしていない。予選から決勝まで蓮子が一人「いないいないばあ」をする一芸で勝ち抜いた。「いないと見せかけて、いる。これは全てのエンタメの本質よ」蓮子は大得意だったが、その後は何故か一切の仕事を断り姿を消した。あるいはこれも、ばあへの前フリか。
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秘封倶楽部と状況
1 year
「あまりに遅く、あまりに永久に」という言葉が誰の発明か、誰も知らない。歴史学者たちの争点は常に「いつ言われたのか」ということで、世界が本編から後日談に移行した時期を特定するヒントになるらしい。でもこれは多分、遅刻した蓮子に私が投げた言葉だった。世界は蓮子のスピンオフなのだろうか。
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秘封倶楽部と状況
4 years
服の袖が引っ掛かり、硝子のコップを落としてしまった。たっぷりの水が床にこぼれ出した。「ありがとうメリーさん、私は水です」蓮子がアテレコしている。「ずっと狭い器に閉じ込められていたの!」解放された水はついに自由な形を作るかに見えたが、ただ広がっていくだけなので、もう拭くことにした。
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4 years
「もっとヒントを」と、私はまた蓮子に言った。 「それは動物ではない。無機物ではない。流体ではない」「もっと!」「音楽ではない。感情ではない。記号ではない」 蓮子が否定文のヒントしかくれないもので、私はとても幸福だった。いま蓮子は私のために、宇宙を彫刻してリンゴを作ろうとしている。
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秘封倶楽部と状況
1 year
「くしゃみしてもいい?」「いいよメリー」「でも、蓮子が崖から落ちかけてるときなのに」「面白いじゃない」「蓮子も怒っていいよ」「くしゃみに怒りながら落ちるのは全然面白くない」「ごめんね」「どうなるか楽しみね」「あくびもしていい?たぶん涙も出るから」「いいよ、いい」覚悟も必要ない……
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秘封倶楽部と状況
8 months
うるう年なので、増えた一日で普段しないことがしたい。CMを撮ることになった。早朝、無人の街にまずメリーが立った。「地球は急いで回りすぎる…季節が追いつくのを待ちましょう。えー、うるうの歌を歌います」交代で私も出演した。番組表に載らない8万6千秒。でも誰もチャンネルを変えなかった。
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秘封倶楽部と状況
5 years
寒い朝だった。私は布団から出ることができず困っていた。とにかく、端末から蓮子に電話することにした。「蓮子助けて。どっちへ行っても布団の出口が見つからない。出られないのよ」蓮子は寝惚けた声で「私もよ」とだけ言い、切れてしまった。私は暗闇の中で一人うずくまり、助けを待つしかなかった。
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秘封倶楽部と状況
2 years
11月11日11時11分だった。「すごくない?」私は言った。すると蓮子は「わかりませんが」と妙に白々しくなって「皆さん外へ出て右の方へ行かれます」と。何かを期待したわけではなかったが、行ってみると、夜空の真ん中を天頂から地平線まで真っ逆さまに垂直1の字の流星。それがただ良かった。
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秘封倶楽部と状況
1 year
「あ、今1機死んだわ」弾幕ゲームにハマってから、これがメリーの口癖になった。危険な瞬間をくぐり抜けた後とは、メリーに言わせると「本当はさっき死んで蘇ったのよ。残機は減ってるの」ということらしい。「あと何機残ってるの」「秘密」「どうしたら残機が増えるの」「ご飯奢ってくれたら」
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秘封倶楽部と状況
4 years
「もっとヒントを」と、私はまた蓮子に言った。 「それは動物ではない。無機物ではない。流体ではない」「もっと���」「音楽ではない。感情ではない。記号ではない」 蓮子が否定文のヒントしかくれないもので、私はとても幸福だった。いま蓮子は私のために、宇宙を彫刻してリンゴを作ろうとしている。
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秘封倶楽部と状況
2 years
蓮子、面白くない話して。「私が完璧な雪だるまを作った話なんだけど」もう面白い。「完璧な雪だるまは溶ける時も美しくないといけないの。でも普通は小さい頭だけ早く溶けてしまう」二つ同じサイズの雪玉使うの?「いや、完璧な方法を見つけた」ねぇこのあと面白くないの?怖くなってきた。やめよう。
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秘封倶楽部と状況
7 months
論文〆切日、徹夜明けの蓮子は半分になっていた。片目に眼帯をしている。「脳に入る情報は八割が視覚なの。だから片目閉じれば四割休める。訓練したら片脳ずつ眠れるようになったわ」以来、右脳蓮子と左脳蓮子は交代で登校する。半分の蓮子は少し物足りなかったが、たまに真顔で寝言を言うのは面白い。
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秘封倶楽部と状況
5 years
メリーの誕生日に何が欲しいか訊くと「最終回が欲しい」と言う。買えるものではないので作ることにした。TV番組や漫画等の最終回を集めて研究し、当日は二人で過去を振り返ったり海へ来たり空を見上げたりした。良い最終回だった。あれから私達は最終回の後を生きているのだろうか。彼女は幸せそうだ。
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秘封倶楽部と状況
5 years
宗教勧誘の訪問、まさにその話題の最中にメリーの家の呼鈴が鳴った。覗き穴の奥では女性が集会のビラを手にしている。しかし、メリーが顔を出すなり彼女は「間違えました」と言い去ってしまった。「…間違い勧誘って何?」おそらく、冒険心の有無とはこういう場合に証明を受ける。「蓮子も集会行く?」
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秘封倶楽部と状況
5 months
「蓮子見てこの記事、月面旅行は予想以上に盛況らしいわ」 「でも庶民には高すぎるわよ。臓器でも売らななきゃ…」 私は怖かった。資金のために臓器を売るという仮定がではなく、現実に臓器を売りさばくコネがあると確信させられる蓮子の口調が怖かった。科学世紀の今日、臓器売買は主に食用だった。
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秘封倶楽部と状況
1 year
11月11日11時11分だった。「すごくない?」私は言った。すると蓮子は「わかりませんが」と妙に白々しくなって「皆さん外へ出て右の方へ行かれます」と。何かを期待したわけではなかったが、行ってみると、夜空の真ん中を天頂から地平線まで真っ逆さまに垂直1の字の流星。それがただ良かった。
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秘封倶楽部と状況
2 years
蓮子の案内で巡る縁日はどれも興味深かった。「これはお面屋。顔を売ってるの」「顔を」「こっちは射的、型抜き、金魚掬い。生き方を選べるわ」「すごい」戦慄を覚えた。人間はここで作られるのだ。ここからやって来るのだ。「名前も買えるの?」「売ってないよ。だから盆踊りは名無しも参加自由なの」
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秘封倶楽部と状況
1 year
予定が空いたので蓮子に会いに行った。しかし蓮子もやることがないらしく「じゃあアドリブで過ごそう」ということになった。本棚の背表紙を全て逆さまにした。金庫に嘘の暗証番号を教えた。出来るだけ非在に近づいてみた。逆に幽霊に写真を撮られた。木の枝を集めて売った。毎日こんな風なら楽なのに。
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秘封倶楽部と状況
5 years
奈良から鹿が来た。どう考えてもあり得る数ではなく、ひしめき合う角と毛皮が一夜にして奈良市を覆い、一週間後には宇治市までを飲み込んだ。ここも時間の問題だろう。原因はわからず、これは夢なのではという推測さえ連日真面目に議論されている。メリーは持ち帰ってしまった鹿煎餅を見て泣いている。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「あ、今1機死んだわ」 弾幕ゲームにハマってから、これがメリーの口癖になった。危険な瞬間をくぐり抜けた後とは、メリーに言わせると「本当はさっき死んで蘇ったのよ。残機は減ってるの」ということらしい。 「あと何機残ってるの」 「秘密」 「どうしたら残機が増えるの」 「ご飯奢ってくれたら」
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秘封倶楽部と状況
4 years
昨夜遅く、街で通り魔事件がおきた。現場付近にいたメリーが血のついた包丁を所持していたため、容疑者として逮捕された。「あれは通りがかりの人がくれたの」「なんでもらうのよ」「なんとなく」「相手の特徴は」「忘れた」いつも通りなのだった。包丁の血が被害者のものと一致せず、翌日釈放された。
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秘封倶楽部と状況
5 years
「この中に、隠れて夜を呼んでいる子がいます」幼稚園の先生はそう言うと集められた園児らの前に威圧的に立った。近ごろ日が暮れるのが早すぎるものでおかしな疑いを抱き始めたらしい。ふと見るとメリーはうつむいて震えている。私はそっと動いて友達を隠した。この話をするとメリーは「は?」と言う。
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秘封倶楽部と状況
1 year
メリーの元気がないようなので理由を訊くと「図書館強盗がしたい」と言う。すぐに二人で図書館へ行くことにした。銃を見せると司書達は怯えて袋に本を詰めた。「どうしてこんなことするんです?どの本もただで二週間貸してあげるのに!」これを聞くとメリーは笑い転げて喜んだ。貸出不可の台詞だった。
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@hhclubSS
秘封倶楽部と状況
1 year
運河を蓮子が流れてきた。これはもちろん過去一番面白い登場だった。市民にも非常に喜ばれ、評判を呼んで運河は観光客が訪れるまでになった。存続を望まれ、今では週二回私も一緒に流れることになっている。京都市から補助金が出るのだから流れて損はないけれど……。溜まったお金で海へ行こうと思う。
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秘封倶楽部と状況
3 years
「プリン作りたい」と蓮子が言った。「百個作りたい。それで全部メリーにあげる。おいしいから」蓮子の夢があんまり素敵で、二人ともおかしくなったように笑った。一枚の鏡を割るために二台の列車を正面衝突させるような、過剰さの滑稽と恍惚。ようやく笑い止んだ時は日が暮れていた。「一個で充分よ」
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秘封倶楽部と状況
10 months
端末で収支を見返していると、蓮子が「いいものあげる」と言って私の口座に「ぬ」を振り込んだ。それ以来、私の通帳の残高には一桁目の後に「ぬ」と書かれている。「これ利子がついたりしないよね?」「つくよ。半年ごとに」蓮子の通帳を見せてもらった。既に平仮名だらけで児童書のようになっていた。
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秘封倶楽部と状況
3 years
「なぜ誰も通報しないの」メリーが言った。私は困ってしまった。新校舎の柱にはコンクリに落ちた作業員が埋められており、1センチ程突き出た柔らかい部分はひじであるということは、学生の間ではとっくに常識だった。「たぶん皆、彼を渡したくないのよ」私達はこわごわと、しかし何度もそれに触れる。
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秘封倶楽部と状況
2 years
「メリーは面白いこと言うなぁ、詳しく聞かせて?」 「これ以上詳しくは無理よ」 「というと?」 「もう話すことがないの」 「興味深い。続けて?」 下鴨の古本市で『聞き上手の極意』を買ってから蓮子の様子がおかしい。話してるとだんだん自分も蓮子も消えていくように感じる。蓮子の話が聞きたい。
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秘封倶楽部と状況
1 year
不動産屋の広告が手に入ったときは蓮子にあげる。蓮子は間取り図を切り抜いてスクラップ帳に貼る。そこでは無数の物件が繋がりあい、まるで複雑で奇妙な都市を形成している。「空想ではないの」蓮子は言う。「たぶん、元に組み直してるの」四方を壁に囲まれた小さな中庭の一角は私のお気に入りだった。
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秘封倶楽部と状況
1 year
せめて蓮子くらいはこの旅行社がおかしいと気付くべきだった。早起きした私は機内で熟睡していたが、起きても沖縄に着いていなかった。空は真っ暗で、海は知らない色だった。途中で空中給油もしたらしい。蓮子は機内食をもらい損ねた私にパンをくれた。「食べられるとき食べないと」旅が始まっていた。
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3 years
一見、その喫茶店は満席だったが、メリーは平然と入店して「二階の席がいいです」と言った。店内の全員が話を止めて振り向いた。店員は階段まで案内してくれたがそこからは一歩も進めなかった。「お二人は二階を信じてますか?」店員の訊いた意味は分からなかったが、二階は貸し切り状態で快適だった。
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1 year
11月11日11時11分だった。「すごくない?」私は言った。すると蓮子は「わかりませんが」と妙に白々しくなって「皆さん外へ出て右の方へ行かれます」と。何かを期待したわけではなかったが、行ってみると、夜空の真ん中を天頂から地平線まで真っ逆さまに垂直1の字の流星。それがただ良かった。
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秘封倶楽部と状況
1 year
空き地の絵を描くとき、何を描き込むかには個性が出ると思う。メリーはなぜかピザの箱を描いた。「空き地といえばよく落ちてるでしょ」と言うのだが、私は見たことがない。でも食べてみたい気がした。無人地に届けられたピザ、それは言わば聖なるピザだと思った。「お腹壊すよ」とメリーは言うけれど。
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5 years
メリーに勧められた人生ゲーム・エタニティは、はじめは単なる人生ゲームのオンライン版に思えた。ゲーム内での年齢が141歳を超えた頃、これは名前通りの永遠の人生なのだと気づいた。このゲームの焦点はどう遊ぶかではなく、いつまで続けるかということだった。私の最高記録は330年。メリーは8234年。
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5 years
窓の外から竿竹屋の声が聞こえてあれは何かとメリーが言うので慌てて黙らせた。普通の人が無意識にしている聞こえないふりがメリーにはできなくて困る。本当に怖い怪異は真昼の住宅街を歌いながら通る。私達はただアレが通り過ぎるのを息を潜めて待つ。それでいい。やがて声は遠ざかり、町は静まった。
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11 months
蓮子の実家で光ディスクを見つけた。表題は「れんこ3才」、当然再生したけれど、想像していた映像ではなかった。目線からして子供の手で撮られたもので、窓の下からじっと息を殺し、青空を写していた。一塊の雲が、こっちへ迫ってくる。窓に影が落ち、「れんこー」と呼ぶ声が聞こえた。私の声だった。
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5 years
「ねえ蓮子、可愛いってどういうこと?」「壊したくないってこと…とか?」それからだった。メリーが可愛いものを見ては「壊したくない…」と呟くようになったのは。余程この言い回しが気に入ったのか、最近は絵や服に限らず天気や法律にまで言う。ところで私はまだ言われてない。訂正の必要を感じる。
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5 years
メリーはクロスワードパズルで悩むと現実を改変してしまう癖がある。最初は「歳を偽るとき読む」という問いに答えたサバという言葉だったが、笑い止む間も無く現実のものになってしまった。急いで雑誌を取り上げたが、既に内容は滅茶苦茶で取り返しがつかない。不良の別名がヤンキーなど意味不明だが…
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3 months
蓮子、面白くない話して。「私が完璧な雪だるまを作った話なんだけど」もう面白い。「完璧な雪だるまは溶ける時も美しくないといけないの。でも普通は小さい頭だけ早く溶けてしまう」二つ同じサイズの雪玉使うの?「いや、完璧な方法を見つけた」ねぇこのあと面白くないの?怖くなってきた。やめよう。
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2 years
日曜に気を暗くしたり、夜更かしするのはもったいないことだとメリーは主張する。「知っての通り、日曜に見る夢はとても長いわ。第八の曜日と呼んでいいほど。なぜ早く寝ないのかしら」事象の地平線の果て、こういう時間を彼女はいくつ持っているのだろう。私の遅刻にも何か大きな意味がある気がする。
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秘封倶楽部と状況
4 years
手描き迷路コンテストに応募されたその迷路は作者メリーの自信を裏切らず優勝を飾った。紙一面に張り巡らされたあまりに緻密で巨大な、そして美しい大迷路はメリーの視線のようで、挑もうとする者さえいなかった。だからこそだろうか、私には容易に突破できた。メリーは行止まりを描かなかったのだ。
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2 years
秘封倶楽部がM-1優勝を果たした。私は何もしていない。予選から決勝まで蓮子が一人「いないいないばあ」をする一芸で勝ち抜いた。「いないと見せかけて、いる。これは全てのエンタメの本質よ」蓮子は大得意だったが、その後は何故か一切の仕事を断り姿を消した。あるいはこれも、ばあへの前フリか。
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5 years
「なぜ動物や赤ちゃんには悩みがないか、メリー分かる?」「四つ足だから?」と私は答えた。足が二本では少なすぎる。地に接する足が四本なら、どれだけ安心して生きられるだろうか。しかしこれは想定されていた答えとは違ったらしい。蓮子はしばらく何かを考えてから、ゆっくりと前屈みになり始めた。
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4 years
「まず私が蓮子の悪口をたくさん言うからね」とメリーの提案した遊びは説明の冒頭から不穏だった。「蓮子はそれを全部『メリーこそ』って私に送り返すの」私は散々理由を作ってその遊びを固辞した。やれば二人が傷付くと思ったからではない。照れくさかったから。きっと私達は同一人物になってしまう。
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秘封倶楽部と状況
4 years
私たちの街にもツタンカーメン展がやってきた。教えてくれたのは蓮子だった。世界で何度目の展示だろう。会場は閑散としたデパートの片隅だった。来場者は私たちだけだった。展示品は素晴らしかったが、王様は明らかに寛大さを使い果たす寸前だった。蓮子がネクタイをしてきた理由がそれでわかった。
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1 year
料理をする蓮子の動作には「間」が足りないと思う。どうすれば何の溜めもなく卵を割れるのだろう。切るのが速いのは包丁使いに余韻がないから?振るとき全然テンポを刻まないのでコショウ瓶も呆れている。 「料理はお葬式じゃないのよメリー」 そう言われて以来、私もパスタを茹でるのが上手くなった。
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5 years
付箋を見るときメリーは、なぜか寂しげな目をしている。「信じてもらえないと思うけど、私、子供の頃に付箋を発明したの。ただ私が生まれるよりずっと前、別の人が先に発明者になってた。でも私だって思いついたのよ…」そう話して、メリーは顔を伏せた。「メリー、私も…私も慣性の法則の発見者だよ」
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9 months
まだ駆け出しの大学生だった頃、多めに淹れた紅茶を魔法瓶に移して持ってくるのが楽しみだった。私も蓮子も全く無名で、日々の単位にすら困る生活だったのに、授業の合間に二人でお茶して気持ちだけ優雅になった。「いつか単位に余裕ができたら、教室でケーキも食べようね」蓮子のよく言う冗談だった。
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4 years
「ミスタードーナツが新セールやってるよ」と蓮子が言う。私は興味なかったが、蓮子ははりきっていた。なんでも「ドーナツのことを考えずに店内を3周できたら全品0円になる」らしい。やっぱり行かないことにした。後日、蓮子は見事にドーナツを二箱持ち帰った。でもそれが何なのかわからないと言う。
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4 months
特別編『ダムに住む話』 1,2/10
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2 years
『鳥を売る方法』1
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